東京地方裁判所 昭和53年(ワ)5266号 判決
原告 株式会社アイチ
右代表者代表取締役 森下安道
右訴訟代理人弁護士 松本義信
右訴訟復代理人弁護士 渡邊邦守
被告 桶谷喜恵
〈ほか三名〉
右被告四名訴訟代理人弁護士 川畑雄三
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金九五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
《以下事実省略》
理由
一 訴外比万和利印刷の代表取締役の地位にあった被告和義が、その地位において本件手形を融通手形として、訴外イラストスポーツ宛に振り出したこと、訴外比万和利印刷及び訴外イラストスポーツがいずれも昭和五三年二月銀行取引停止処分を受けたこと、本件手形が不渡りとなったこと、被告修久、同喜恵、同恒夫が本件手形振出し当時、それぞれ訴外比万和利印刷の代表取締役、取締役、監査役であったことは当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》を総合すれば、訴外比万和利印刷は、昭和五一年一〇月頃から訴外イラストスポーツの発行するバスケットボールの専門月刊誌の印刷を請け負うようになったが、同雑誌の発行部数の増加に伴い、訴外イラストスポーツとの取引量も増加し、昭和五二年一〇月頃の同社に対する売掛金債権が約二〇〇〇万円に達していたこと、訴外比万和利印刷の代表取締役の地位に在った被告和義は、昭和五二年九月頃訴外イラストスポーツから資金援助のための融通手形の振出を要請され、同年一〇月頃から翌年一月頃までの間、同社に対し本件手形を含む融通手形を振り出したこと、被告和義は、振出時において自社資金で決済することが困難であることを認識していたが、訴外イラストスポーツの訴外比万和利印刷への注文印刷部数が増加していることから、訴外イラストスポーツが売掛金を回収するまでのつなぎを与えれば、満期に同社の資金において決済できるものと判断し、又、資金繰りの悪化により同社が倒産すれば、同社に対し多額の売掛金債権を有する訴外比万和利印刷も又倒産するおそれがあることを考慮して、本件手形を含む融通手形の振出しに応じたこと、同五二年一〇月に振り出した訴外イラストスポーツに対する融通手形は同社の資金により決済されたが、同年一一月、一二月、翌年一月に振り出された本件手形は不渡りになったこと、訴外比万和利印刷は、訴外イラストスポーツ等の倒産による売掛金債権のこげつきにより、同五三年二月倒産したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、被告和義が本件手形の被融通者である訴外イラストスポーツが満期に決済をなすことができないことを予測できるような事情を認識又は予見していたと認めるに足りる証拠はなく、また、訴外比万和利印刷の倒産が被告和義の融通手形の濫発によるものであると認めるに足りる証拠もない。なお、証人小沢尚夫は訴外比万和利印刷の倒産の原因は莫大な融通手形の振出であった旨供述しているが、《証拠省略》に照らし採用することができない。
三 前記認定の事実によっては、本件手形の振出し及び訴外比万和利印刷の倒産につき、被告和義に故意又は重大な過失による任務懈怠の行為があったと認めるに足りない。
四 以上のとおり、被告和義に任務懈怠に基づく商法二六六条の三の責任を肯認できないのであるから、被告和義を除くその余の被告らの被告和義に対する監視義務懈怠及び商法二六六条の三、二項所定の行為は仮りに認められるとしても、原告主張の損害と相当因果関係があるものということができない。
五 よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 押切瞳)
〈以下省略〉